猫の問題行動とは? 分類と原因、対処法

2021年10月21日

人と一緒に暮らすペットとの間問題になる行動、問題行動
問題行動によって悩まされる飼い主や、場合によってはペットとお別れをしてしまうケースもあります。
このページでは、問題行動の概要と種類、原因や対処法について、概要をまとめます。

参考にしているのは下の文献です。端的にまとまっており、研究者でなくても読みやすいです。
藤井(2017)猫における問題行動.動物臨床医学.

いつまでも愛する猫と穏やかに暮らすために、適切な関係を築きましょう。

問題行動とは

ペットの問題行動とは、人との生活をするにあたって、「飼い主が容認することができない、あるいはペット自身に傷害を与えるような行動」「飼い主が生活する上で好ましくない行動」と定義されています。(獣医動物行動学による定義)。
つまり問題行動とは、飼い主が認識したときにはじめて問題行動となります。

あくまで人間側の認識で認定される問題行動ですが、そのほとんどが動物本来の性質によるものです。
人間との生活を通じて、犬や猫が彼ららしく生きるために、動物本来の性質の理解と、問題行動に対する正しい認識が重要になってきます。

猫の問題行動 分類

猫の問題行動として、藤井(2017)の分類を借りて整理したものが下です。
・排泄行動
・攻撃行動
・その他の行動

排泄行動における問題行動とは、飼い主が想定していない不適切な場所に排泄をしてしまうこと。
攻撃行動は他者への攻撃的な行動をまとめたもので、対象は人に限らず、他の猫ならびに他の動物によるものも。
その他の問題行動は、しつこい鳴き声や不適切なひっかき行動、常同障害などが分類されます。

それぞれ簡単に内容と原因、対処法をまとめていきます。

猫の問題行動① 排泄行動

不適切な排泄行為と認識される行為には大きく分けて2つあります。
・マーキング行動
【概要】縄張り主張行動。猫の場合は立座、スプレー状に尿を噴出する。通常の排泄では猫トイレを使う
【原因】猫本来の行動ではあるが、他の猫による挑発、ならびに不安によって増加することもある
【対処法】行動修正法、薬物療法(抗うつ剤など)、外科的療法(繁殖を望まない場合は去勢・避妊手術を検討)、その他(フェロモン療法など)

・その他の不適切な排泄行動
【概要】通常の排泄行為を、猫トイレ以外でしてしまう
【原因】医学的疾患、あるいは猫トイレへの不満・不安による
【対処法】医学的疾患の治療に並行して行動修正(猫トイレへの不安要因の排除など)、薬物療法(抗うつ剤など)が主。マーキング行動に対して使用されるフェロモン薬が、他不適切な排泄行動の減少につながることもある

マーキング行動かどうかの判断は難しくありません。
一方で、原因を探るのは素人では難しく、複雑なこともあり獣医師でも特定が困難な場合があります。
まずは猫トイレを綺麗にすることと、行動修正法に基づいて、飼い主自身の行動を振り返ってみましょう。
(行動修正法についてはこの記事の下部のセクションもご覧ください)

猫の問題行動② 攻撃行動

攻撃行動には、
・攻撃対象による分類(身近な人/見知らぬ人・猫・他種動物・非生物)
・推測される動機づけによる分類(捕食などの攻撃的行動・恐怖などの防御的行動・その他)
などの分類方法があります。
【概要】他者への威嚇、危害を与える行為
【原因】品種や血統、雌雄といった生得的要因と、飼育環境や社会性の欠如、体罰・虐待やトラウマ、幼少期の栄養不足といった環境要因が考えられる
【対処法】行動療法、薬物療法、外科的療法(去勢・避妊など)、その他(フェロモン剤など)

不安と攻撃行動の関連性は慎重に見極める必要があります。
不安によって攻撃的になっている猫には、不安を和らげる薬物の投与は有効かもしれませんが、不安によって攻撃行動を抑え込んでいる猫には、逆に攻撃行動を誘発する可能性があるからです。

飼い主ができることは、まずは攻撃対象を確認すること。
場合によっては、猫Aと猫Bに対して異なる反応をしていると診断されることもあるので、対象が複数の場合はそれぞれに対しての行動を個別に観察する必要があるでしょう。
また、飼い主との関係が良好でない場合に起こる事もあるので、自身の猫への接し方も振り返るとよいでしょう。
(これも「行動修正法」の項目で触れます)

猫の問題行動③ その他の問題行動

排泄や攻撃性に分類されない問題行動の代表として、
・過剰発声
・不適切なひっかき行為
・常同障害
があります。

過剰発声
【概要】不必要に繰り返される鳴き声
【原因】発情や医学疾患、不安分離、関心を求める行動からなるものなど。品種(東洋系猫で報告例が多い)や飼育環境、飼い主への関心、潜在的な不安によるものなど、理由は様々
【対処法】まずは過剰発声が始まるきっかけとなる刺激を特定し、刺激に応じた治療・対処を行う

・不適切なひっかき行為
【概要】家具など、飼い主が望まない場所へのひっかき行動
【原因】ひっかき行動自体は、猫が生来もつ当たり前の行為。飼い主の不適切な干渉により強化されることもある。
【対処法】爪研ぎ器などの飼育環境を整えることと、飼い主自身の行動を振り返ること。飼い主の気を引きたいだけの場合との鑑別が必要。

・常同障害
【概要】異常な頻度で繰り返される行為。猫ではグルーミングや心因性脱毛症、ウールサッキングなどが分類される
【原因】品種(東洋種に多い行動が報告されている)、ストレス、葛藤、欲求不満などで生じる。医学的疾患、ならびに飼い主の関心を引きたいだけの場合との鑑別が必要
【対処法】繰り返されている行為によって異なる。不安からくるものであれば不安を除外する。なお、ウールサッキングについては対象物を排除することで行為が落ち着くことがある

「行動修正法」とは

これまで問題行動の対処法として書かれてきた「行動修正法」。
聞き慣れない言葉ですが、誤解があると逆効果になることもあるので、あえてセクションを分けて説明します。

「行動修正」と聞くと、問題行動をしている猫側の行動を変えることだけを指すように思えますが、
実際にはともに暮らす私たち、飼い主側の行動も同時に変える必要があるのです。

例えば猫の問題行動の一つ、「攻撃行動」。
これは医学的疾患や発情などの要因以外にも、飼い主との関係性や飼い主からの体罰、飼育に不適切な環境などが要因に挙げられます。
飼い主との関係が希薄であれば、構ってあげる時間を作ったり、短時間でも猫が楽しく安心するような付き合い方を考えていく、
もし体罰が原因なら、飼い主自身の行動変化と、猫の飼育に対する認識の改善が必要です。
飼育環境が不適切であれば、適切な環境に飼い主自身が変える必要があります。

霧吹きや猫が嫌がる匂いで「この行動がダメだよ」と伝えることは簡単ですし、必要な場合も多いです。
ですが、飼い主が必要な変化をしないと、問題行動が発生する要因が取り除かれず、猫の問題行動は続きます。
猫の問題行動は、飼い主から見て不適切であるため認定されますが、原因を全て猫に押し付けるのは適切ではありません。

猫が負担なく、飼い主さんの許容範囲の行動を取れるように、
しつけ方法や環境整備など、飼い主自身の行動変容も含めて、猫と一緒に暮らしやすい関係を築いていきましょう。

まとめ

猫の問題行動について広く浅く紹介しました。
飼い主からは行動に難あり、と見えてしまいますが、医学的疾患(要は病気)が原因の場合もあります。
治療・改善にあたっては、必ず獣医師などと相談しながら、病気の可能性がないのか、しつけ直しが必要なのか、適切な対処法を見極めていきましょう。


問題行動を繰り返し、飼い主と猫との間に溝ができると、最悪悲しい結末を迎えることがあります。
保護猫ならトライアル失敗や、迎え入れた後の猫であれば保護猫団体に帰ってくることもありますし、
帰るところがない子は、捨てられたり保健所に連れて行かれたりします。

だからといって、飼い主一人に全てを背負わせるのはしんどいでしょう。
もちろん、命ある生き物を家族に迎え入れるので、責任を持って育てていく必要はありますが、
飼い主にも生活があり、仕事や家事育児といった、人として・猫との暮らしを守るための行動に時間を割いています。

猫のスペシャリストや、とてもとても深い愛情を持っている人だけが、猫の飼い主に相応しいというのは極論かもしれません。
猫を迎え入れたいと思う全ての人にとって、困った時に手を差し伸べられる存在があると、猫も人も幸せに暮らしやすくなるのではないでしょうか。

ウールサッキングしてしまう我が家の猫も、飼い主と一緒にトレーニング中です。