キャットフードと猫の快適な生活

イライラしていたらカルシウムが足りない、なんてことを聞いたことがある人もいると思います。
人間もそうですが、猫も、栄養と行動には密接な関わりがあります。

体に不安があったり悪いところがあると、行動もおかしくなります。
猫だと、うずくまって出てこなかったり、触られるのを嫌がったりということも。

体の不安は病気や怪我が理由で、その場合治療は投薬・手術などが挙げられますが、普段の食事を気をつけることで変わることもあります。
例えば、尿路結石対策成分のためにミネラルやpHを調整したフードや、最近は不安症の緩和のため、トコフェロールなどが入ったフード・サプリも販売されています。

このコラムでは、日本のキャットフードの歴史をかいつまんで説明したあと、
良いフードの見分け方や病気との関係を紹介します。

猫ごはんの歴史

猫ごはんの歴史と書いていますが、意識的に「猫にとってよくない歴史」をピックアップしています。
ここに書かれたことのほかに、メーカーや研究者・オーナーによる、猫のためになるもっと膨大で正しい努力があることは常に忘れないようにしましょう。

・ねこまんま
ねこまんまとは、関西では「ごはんにお味噌汁をかけたもの」を、関東では「ごはんに鰹節をかけたもの」で、猫にあげるような残りご飯を混ぜたものを指します。
昔は犬や猫用のフードを用意せず、人間の残飯を与えていた名残を感じさせる言葉です。

現在はそのようなことをする方はごくわずかだと思いますが、人の残飯を与えるのはNG。
雑食の人間と肉食の猫では必要な栄養分が違うことも大きな理由ですし、何より塩分過多・中毒成分など、直接的・短期的に健康に影響が出る成分がふんだんに入っています。
中毒成分としてはカカオ(チョコ)やネギ類などが有名ですが、いちいち猫にあげるために人のご飯の材料を選ぶ人はいません(そんな人がいたら、猫用にフードを作っているかと)。
昔の犬猫の平均寿命が短かったのは、一説によると、このようなフード環境によるものだと言われています。

ねこまんまに限らず、「こんなに美味しいんだから愛猫にも食べてもらおう」と、人用の食べ物を軽い気持ちで与えるのは絶対にやめましょう。

・キャットフードとリコール
近年とみに、環境汚染やそれに伴う食糧汚染への意識が高まってきています。
しかしそれは、やはり人間が優先。
21世紀になってもまだ、汚染された食糧を使って作られたペットフードによる犬・猫の死亡事故が起きています。

最近のものとして有名なのは、2007年に起きたペットフード大量リコール事件です。
これは特定のメーカーに限定されず、汚染素材を原料と使ったことにより汚染されたフードが市場に出回り、それを食べた犬・猫が死亡したという事件です。
世界各国で腎不全が報告されたことで発覚し、動物実験により死亡・病気という結果により、世界中のペットフードがリコールされました。その数、5000種以上にのぼりました。

この事件から派生して、人間の食品に対する目も一段と厳しくなりました。
例えば、汚染された飼料で飼育された輸入鶏肉が輸出後に発見されるなどして、アメリカ食品医薬品局(FDA)が該当国からの輸入を無検査で禁止し、貿易摩擦にもつながっています。

この事件を受けて、現在は、メラミンとシアヌル酸という成分が腎不全を引き起こすと目されています。
原因物質が特定されつつあることで、各社はそれらを除いたフードの開発・製造により、より安全性の高いフードの普及につながっていっています。

※方向の違う議論になることを避けるため、具体的な地域名や国名、メーカー名は極力出しておりません。気になる方はご自身でぜひ調べてみてください。

・猫と犬の平均寿命の推移
このような悲しい歴史を経て、猫の食環境はここ数十年で劇的に改善されています。
下のグラフは1980年からの猫・犬の平均寿命の推移ですが、30〜40年前は2~3歳で亡くなる個体が多かったところ、ここ最近は10歳越えも当たり前になってきたことがわかります。

家庭動物(犬猫)の高齢化対策(日本獣医師会)より


キャットフードを開発・販売しているメーカー努力、そこに協力している研究努力と、私たち猫のオーナーの知識の向上と根本的な食(人間含む)に対する安全性の向上による改善です。

話の筋からは逸れますが、現代の猫とオーナーを悩ませ悲しませている「猫腎臓病」についても、根本治療の光が見えてきました。
ニュースにもなり、クラウドファンディングもされていたので、ご存知の方も多いかと思います。
このような技術・科学の進歩により、更に幸せに長生きできる猫が増えていくことはとても喜ばしいことですね。

良いフードの見分け方

話を戻して、良いフードというのはどのように見分ければいいのでしょうか?

その前にまず、日本を含めた各国のペットフードに対する規制を確認しましょう。

日本のペットフード規制は欧州諸国に比べてとても甘いと言われています。
例えば原材料表示。
日本では、ペットフード安全法によると、下記のような規制状況となります。

使用した原材料(添加物を含む)を全て記載する必要があります。 ただし、いわゆる加工助剤については表示を省略することができます。加工助剤とはペットフードの加工の際に添加される物であって、次のいずれかに該当するものをいいます。

      ・ペットフードの製造の過程において除去されるもの

      ・当該ペットフードの原材料に起因してそのペットフード中に通常含まれる成分と同じ成分に変えられ、かつ、その成分の量を明らかに増加させるものではないもの

      ・当該ペットフード中に含まれる量が少なく、かつ、その成分による影響を当該ペットフードに及ぼさないもの

    なお、事業者が科学的・合理的根拠等に基づき加工助剤であることを説明できない場合には、表示の省略はできませんので注意してください。

    ビタミン、ミネラルのプレミックスを使用した場合も、原材料名として「ビタミンプレミックス」などと記載することはできず、ビタミン、ミネラルの個別名を記載する必要がある一方、プレミックス中のその他の物質で加工助剤に該当する物質は表示を省略することができます。

農林水産省HP > ペットフード安全法に関するQ&A

つまり、すでに加工された素材を用いた場合、加工時に必要な成分などは記載する義務はない一方、一方で、主となる原材料は全て記載が必要。
これは日本で製造・販売されるフード全てに適用されるため、海外からの輸入フードも同様の規制のもとに販売されています。

ということで、日本で市販のフードを選ぶ時の参考として、フードの裏面に基づいて「原材料名」と「栄養素」の観点でみてみます。

・総合栄養食を適量与える
ペットフードには「総合栄養食」「一般食/副食」「間食/スナック」という分類があります。
このうち、ベースのフードは「総合栄養食」を選びましょう。

「総合栄養食」とは、「ペットフード公正取引協議会」がAAFCO(米国飼料検査官協会)に準拠して定めた栄養基準を、分析試験もしくは給与試験によってクリアしたものです。
このフードを適量と、水を飲んでいるだけで、成長と健康が維持できるという優れもの。
パッケージの裏面に書いてあります。必ずチェック。

TVCMを流していたり、一般的に有名なブランドの中には、一般食やスナックのものも多いです。
一般食は総合栄養食に混ぜるいわゆるおかず。
スナックはおやつですね。
主食は総合栄養食。

小さいとき、親に「おやつばかり食べない!」と叱られた経験ありますよね?
栄養足りないかな?と思ったときにはまずはこれを確認しましょう。

確認ができたら、次の項目を確認です。

・原材料名を確認する
「肉」と「ミート」
すごくばっくりいうと、「鶏肉」や「フレッシュチキン」など、肉であることが明確になっているような記載が安心です。

一方で、肉という字が入っていても、「肉副産物」「肉骨粉」などは、私たちが食べているいわゆるお肉の部分ではありません。
肉副産物は生体の肉以外の部分で骨や内臓などがこれに当たります。肉骨粉は食肉を取り除いた後の屍肉や脳、内臓、骨や血液などを加熱・乾燥して粉末にしたものです。
私たちが食べない、馴染みのないものですし、なんだか字面が怖そうですが、猫たちに不要というわけではありません。
内臓といっても、ハツやタン、レバーなど、焼き鳥や焼肉屋で馴染みのある部位も含まれています。
無闇に怖がりすぎるのは時期尚早ですが、内臓だけが入っているわけではない点は認識しておきましょう。

猫たちはネズミなどの小動物を丸ごと食べるような生活をしており、消化機能や必要栄養素もその生活とリンクしています。
なので、私たち人間に比べて、穀物の必要比率は少なく、一方で生肉以外の動物の部位(に含まれる栄養、ミネラルやビタミンなど)はしっかり必要になるということです。
猫のためのごはん、という意識をしっかり持つことが大事ですね。

ちなみに、猫のフードを色々調べていると、「〇〇ミート」という記載や「4Dミートを避けよう」という記事を見ることがあると思います。
現在は日本で売られているペットフードで4Dミートが入っているものはあまり見ることがないですが、もし見かけたら避けておくのが無難かもしれません。
(あまり気分の良い情報ではないので、4Dミートについてはご自身の責任で調べてみてください。)

・ビタミン、ミネラルのバランス
前述の通り、猫はビタミンとミネラルが必要です。内臓を丸ごと食していた生活にあった体づくりをしているので、人間と必要なビタミン・ミネラルは違います。
猫に必要な成分は44種と言われていますが、特にビタミンA、タウリン、アラキドン酸などが不足気味。
ビタミンAやナイアシンなど、猫の体内で生成できないものもあり、これらはフードから摂取しないといけません。
犬はビタミンAを体内で生成できるので、犬と猫では違う栄養が必要 = それぞれに特化したフードをあげる必要がある、ということです。
猫用の総合栄養食を選んで適量与えていたら、この辺りはクリアしています。

ちなみにミネラル分は多ければ多いほどいいというわけではなく、尿路結石などの病気の原因にもなるため、あくまで適量を意識です。

猫のアレルギーとフード

総合栄養食を選ぶこと、主となる原材料を確認すること(心配なら〇〇ミートを避ける)、ビタミン・ミネラルが適量入っていること。
これらをクリアしたご飯をあげていても、あまり具合が良くないことがあります。
もちろん、物事に絶対はないので、今の安全基準や法規制では検出できなかった有害なものが混入されていた、という可能性もありますが、まずは「その子に合わない」ということから考えるのが良さそうです。

食物アレルギーが市民権を得るようになりましたが、それはペットも同じ。
猫によっては、穀物や一部の肉など、特定の成分に対するアレルギー反応が出てしまうことがあります。

下のような症状がしばらく続くようであれば、ベースのフードに入っている成分に反応している可能性もあります。

  • 口周りや耳、手足など皮膚のかゆみ
  • 発疹や熱、むくみ
  • 下痢や嘔吐
  • 涙やけ
  • 脱毛や薄毛、毛並みの荒れ、フケ など

清潔を保ったり猫に無用なストレスを与えないなど、生活環境をあらためて整えて、それでも続く・繰り返すようであれば、アレルギーの可能性も考慮して病院に相談してみましょう。

アレルギーであれば、その成分を除去するのが一番です。
穀物アレルギーであれば、最近増えてきたグレインフリーのフード、
お肉にアレルギーがあれば、鹿肉などのアレルギーが出にくいとされる肉類を使ったフードというように、
その子のアレルギー状況に合わせてフードを変えていきましょう。

手作りフードの注意点

これまでの話を受けて、市販のフードが怖かったり、もっといいご飯をあげたくなり、手作りフードにチャレンジする方もいるかもしれません。
フードを手作りして与えると、猫と飼い主の絆も深まりますし、飼い主はより一層愛情が増すので、コミュニケーション上とてもいいと思います。
一方で、猫のためを思うのであれば、いくつか注意したほうが良いポイントがあります。

・NG食材を使わない
基本ですが、ネギ類やカフェインなどはNGです。

・ビタミンとミネラルのバランスをチェック
いわゆる人間が食べる部分のお肉を中心にしたフードを作っても、内臓などに含まれるビタミン・ミネラルは不足してしまいます。
不足分は野菜を入れたり、おやつやサプリメントを追加して補うようにしましょう。

・お肉ばかりを与えない
繰り返しになりますが、いわゆるお肉だけを与えていると、ミネラル・ビタミン不足を引き起こします。適量の油分も必要ですが、与え方によってはそれも過不足が出てくるので注意です。
ちなみに生肉はカルシウムの吸収を阻害する成分が入っているので、与えすぎると骨弱化することも。寄生虫も心配なので、与えすぎは避けましょう。
非加熱繋がりですと、生魚はチアミターゼ(ビタミンB1分解酵素)が含まれるため与えすぎるとビタミンB1欠乏症に、生卵は白身にビオチン分解酵素が入っているため同じくビタミン欠乏症を招くことがあります。酵素は熱に弱く加熱すると壊れることが期待されるので、生で与えすぎないように気をつけましょう。

・毎年の健康診断は欠かさない/猫の様子をしっかり確認する
健康診断の習慣がない家庭は、まず毎年の健康診断を。病院に行くのが大変な方は、往診をお願いすることができるかもしれません。
栄養の偏りに伴う不調は、じわじわとやってきます。
飼い主自身も毎日ちゃんと見るようにしつつ、客観的な確認も定期的に取り入れましょう。
もちろんこの話は、手作りフードの猫に限りません。
総合栄養食で生活している猫にも、毎年の健康診断をぜひ。

・続くかどうか
食の嗜好性が高い猫にとって、ベースのフードが変わること自体ストレスになることもあります。
気にいるフードでないと、お腹が空いても食べないのが猫。
特別な日だけ手作りで基本は市販フード、というのであれば問題ないと思いますが、ベースとなるフードを毎日手作りするとなると、それが続けられる環境を整えておきましょう。

毎日のごはんが体に悪影響を及ぼすようであれば、幸せな飼い猫ライフは送れません。
栄養不足により体の内外に異変が出ることもありますし、結果問題行動につながることもあります。

愛する猫と幸せな生活を送るためにも、おかしいなと思ったら一度フードの見直しを。